法人向け食料支援の効果を測る:KPI設定とデータ活用の実践ガイド
食料支援活動を通じた社会貢献は、企業のCSR活動として重要な柱の一つです。多くの企業が食品寄付や従業員ボランティアなどに取り組んでいらっしゃることと存じます。活動を進める上で、その効果をどのように測定し、社内外に報告するかは、CSR担当者の皆様にとって重要な課題ではないでしょうか。
漫然と活動を続けるだけでは、ステークホルダー(株主、従業員、地域社会、支援団体など)からの信頼を得ることや、活動の継続的な改善につなげることは困難です。活動の意義や成果を明確に示し、企業の貢献を「見える化」するためには、効果測定が不可欠となります。
この記事では、法人として実施する食料支援活動の効果を測定するための基本的な考え方から、具体的なKPI(重要業績評価指標)設定、データ収集・活用の実践的なポイントまでを解説いたします。
食料支援活動における効果測定の重要性
企業が食料支援活動の効果測定に取り組む重要性は多岐にわたります。
- 説明責任(アカウンタビリティ)の遂行: 企業は社会の一員として、投じたリソース(資金、時間、物品、人材)が社会にどのような影響を与えたかを説明する責任があります。効果測定はその根拠となります。
- 活動の価値向上と改善: 測定結果をもとに、活動が当初の目的を達成しているか評価し、必要に応じて戦略や手法を見直すことで、より効果的な支援につなげることができます。
- ステークホルダーとのコミュニケーション: IR資料、サステナビリティレポート、社内報などを通じて活動成果を具体的に報告することで、企業イメージ向上、従業員のエンゲージメント向上、パートナーシップ強化に貢献します。
- 将来的な投資判断: 効果の高い活動にリソースを集中させたり、新たな支援分野への投資を検討したりするための判断材料となります。
効果測定の基本的な考え方:ロジックモデル
効果測定を進める上で、まず活動の全体像を整理するために「ロジックモデル」の考え方が役立ちます。これは、活動に投入する資源(インプット)から、最終的な社会への影響(インパクト)までを論理的に結びつけるフレームワークです。
- インプット(投入資源): 活動に投じる人、物、金、時間、情報などの資源(例:寄付した食品の量、ボランティアに参加した従業員の人数と時間、活動に要した費用)。
- アクティビティ(活動内容): インプットを活用して行う具体的な活動(例:食品の収集・梱包、ボランティアによる仕分け・配送、啓発イベントの実施)。
- アウトプット(直接的成果): アクティビティの結果として直接生じる成果(例:配布された食品の量、支援を受けた世帯数、ボランティア参加人数)。これは比較的測定しやすい数値です。
- アウトカム(中間的成果): アウトプットを通じて達成される、対象者の変化や課題解決への貢献(例:支援を受けた人々の食料不安の軽減、栄養状態の改善、孤立感の解消、従業員の社会貢献実感の向上)。これは定性的・定量的な変化を含むため、測定に工夫が必要です。
- インパクト(長期的影響): アウトカムが積み重なることで生じる、より広範で長期的な社会の変化(例:地域全体の貧困率低下、食品ロス削減文化の浸透、社会全体のウェルビーイング向上)。測定が最も難しいですが、活動の究極的な目標を示すものです。
このモデルに沿って、自社の食料支援活動がどの段階に貢献し、どのような変化を目指しているのかを整理することで、設定すべき指標が見えてきます。
具体的な指標(KPI)の設定例
ロジックモデルに基づき、自社の活動目的と照らし合わせながら、測定可能で具体的なKPIを設定します。CSR担当者の皆様が法人としての活動実績を報告する際に活用しやすい、いくつかのKPI設定例をご紹介します。
「量」に関する指標(アウトプットレベル)
- 寄付食品量: 寄付した食品の総重量(kg)または総金額。品目別の内訳を示すことも有効です。
- 配布食品量: パートナーである支援団体を通じて、実際に困窮者や施設に配布された食品の総量(kg)。
- ボランティア参加者数: 食料支援関連のボランティア活動に参加した従業員の総人数。
- ボランティア延べ時間: 参加者数に活動時間を乗じた総時間(例:10人 × 3時間 = 30時間)。
- 支援対象者数/世帯数: 支援団体を通じて食料支援を受けた個人または世帯の数。
これらの指標は比較的容易にデータ収集が可能であり、活動規模を示す上で基本的かつ重要な指標です。
「質・変化」に関する指標(アウトカムレベル)
- 支援対象者の変化:
- 食料不安を感じる頻度の変化(アンケート調査など)
- 食生活の変化(栄養バランス、食事回数など)
- 経済的負担の軽減実感
- 精神的な安心感や孤立感の軽減 (これらのデータ収集には支援団体との密な連携や協力が不可欠です)
- 従業員の変化:
- ボランティア活動への満足度、達成感(社内アンケート)
- 社会貢献への意識向上
- 所属企業へのエンゲージメント向上
- チームワークや部署間連携の向上
- 支援団体側の変化:
- 支援キャパシティの向上(寄付受け入れ・配布能力の強化)
- 活動の安定化、継続性
- 新たな支援プログラム開発への貢献
アウトカムレベルの指標は、活動が社会や関係者にどのような「良い変化」をもたらしたかを示すものです。定量化が難しい場合もありますが、アンケート調査、ヒアリング、事例収集などを通じて定性的な情報を収集・分析することも重要です。
「社会への影響」に関する指標(インパクトレベル)
- 食品ロス削減貢献量: 企業内で発生した食品ロスのうち、寄付によって回避できた量(kg)。
- CO2排出量削減貢献: 食品ロス削減や輸送方法の工夫などによるCO2排出削減への貢献度(算定には専門知識が必要な場合があります)。
- 地域経済への貢献: 食料支援活動が地域の雇用や関連産業に与える間接的な経済効果。
インパクトレベルの測定は高度であり、単独の企業の活動だけで明確な数値を出すことは困難な場合があります。しかし、業界全体や他組織との連携による共同調査、第三者機関による評価などを通じて、間接的な貢献を示すことは可能です。SDGs目標達成への貢献として、活動が関連する目標(例:目標2「飢餓をゼロに」、目標12「つくる責任つかう責任」)に対してどのような貢献を示せるかという視点も重要です。
データ収集の方法とポイント
設定したKPIを測定するためには、適切かつ継続的なデータ収集体制を構築する必要があります。
- 社内でのデータ収集:
- 寄付物品の記録: 寄付品目、数量、重量、寄付日、寄付先などを記録します。社内システム、共有スプレッドシート、あるいは寄付専用の記録用紙など、運用しやすい方法を選択します。
- ボランティア参加記録: 参加者の氏名、部署、参加日時、活動時間などを記録します。社内ボランティア登録システムや、活動ごとの出欠表などを活用します。
- 関連費用の記録: 食料品の購入費、輸送費、梱包材費、ボランティアに関わる費用(交通費補助、保険など)などを正確に記録します。
- 社内アンケート: 従業員のボランティア参加満足度、活動を通じた意識変化などを把握するために実施します。
- 支援団体との連携によるデータ収集:
- 最も重要なのは、パートナーである支援団体と事前に「どのようなデータを共有可能か」「どのように収集するか」について合意形成を行うことです。
- 支援団体側で記録している配布量、対象者数、対象者の属性(例:一人親家庭、高齢者、障がい者など)、対象者からの声(アンケート、聞き取り結果)などを提供してもらえるよう依頼します。
- 支援団体の運営状況やプライバシー保護に配慮し、無理のない範囲でのデータ提供をお願いすることが信頼関係の維持に繋がります。
- 外部データの活用:
- 活動地域の貧困率、失業率、食品ロス発生量などの統計データは、活動の必要性や社会全体への影響を示す上で参考になります。公的機関や調査機関が発表するデータを活用します。
- 収集ツールの選定:
- 小規模な活動であればスプレッドシートでも管理可能ですが、活動規模が大きくなるにつれて、データベースやCSR報告書作成を支援する専用システムなどの導入を検討することも有効です。
データ収集は一度きりではなく、継続的に行うことが重要です。活動の前後や定期的なタイミングでデータを収集・蓄積することで、変化を追跡し、長期的な効果を評価することが可能になります。
収集データの分析と活用
収集したデータは分析し、具体的な成果としてまとめます。
- データの整理: 収集したデータを集計し、グラフや表などで視覚的に分かりやすく整理します。
- 目標との比較: 設定したKPIに対して、実績がどうであったかを評価します。目標達成度合いを明確にします。
- インサイトの抽出: データから示唆されること(例:特定の地域のニーズが高い、ボランティア参加者の満足度が高い活動は何か、といった傾向)を読み取ります。
- 報告書の作成: 社内報告書、IR資料、サステナビリティレポート、ウェブサイト掲載記事など、目的に合わせた形式で成果をまとめます。数値データだけでなく、支援を受けた方やボランティア参加者の具体的な声(定性データ)を盛り込むことで、報告内容に深みが増します。
- 活動へのフィードバック: 分析結果に基づき、次回の活動計画立案や改善点洗い出しに繋げます。「この活動は効果が高かったので拡大しよう」「この部分のデータが不足しているので収集方法を見直そう」といった具体的なアクションに繋げることが重要です。
まとめ
法人として取り組む食料支援活動の効果測定は、単なる義務ではなく、活動の価値を最大化し、持続可能な社会貢献を実現するための重要なプロセスです。ロジックモデルで活動の全体像を捉え、目的に合った具体的なKPIを設定し、計画的にデータを収集・分析することで、活動の成果を明確に示し、社内外からの評価を高めることができます。
CSR担当者の皆様におかれましては、ぜひこの記事でご紹介した考え方や実践ポイントを参考に、貴社の食料支援活動の効果測定に取り組んでいただき、その貢献を広く伝えていただければ幸いです。継続的な測定と改善を通じて、社会課題の解決に貢献できる活動をさらに推進していきましょう。